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No.1 凹凸と平らはどっちがいい?

 私は小学校1年の時から10年くらいピアノのレッスンを受けていた。その間はハ長調,ト長調,ニ長調,イ長調,ホ長調,ロ長調,ヘ長調,変ロ長調,変ホ長調くらいのスケールは毎週弾いていたし,聴音の訓練も受けていた。それが後にギタリストになる時の大きな助けとなったわけだが,未だに音楽理論を勉強するには自分にとってどっちが有効な道具かは迷う。Keyにどういう調号が付くかは反射的にピアノの黒鍵を思い浮かべてしまうし,度数に関してはギターのフレットが思い浮かぶのだ。
 
  鍵盤楽器というのはご承知のように白鍵と黒鍵がある。オクターブの間には2個所,黒鍵の無い間隔があるのだ。これが音楽を考える時の「ヒント」になったり「迷い」になったりする。例えばドミソのCmajを押さえるのと,レファ♯ラのDmajを押さえるのとでは,当たり前ながらピアノの場合,手のフォームが違う。スケール練習だってKeyによっては運指が違うのだ。しかしながら,音階の全音と半音を学生に教える時には「ほら,ミとファの間には黒鍵が無いし,シとドの間にも黒鍵がないでしょ」と言ったりしている。とりあえず日本人は小学校でピアノの鍵盤には触れるので(音楽の教科書の裏に鍵盤の絵が描いてあったりしたでしょ)誰でも理解できるんだよね。
 
 それに対してギターという楽器はすべての音域に凸凹なく,音は平らに敷き積まれている。ということは手のポジションを平行移動すると,簡単に移調することができるわけだ。これは便利な反面,そのキーの特徴というのが掴みづらい。何調を弾いていても開放弦を使わない限りは運指がすべて同じなので,まるでどこを取っても金太郎飴なのだ。何処と何処がミとファ,もしくはシとドの関係なのかなんて見ただけではまったくわからない。
 そしてもう一つギターで辛いのが,左のような密集和音(クローズボイシング)が自由自在に出せないことだ(この例では開放弦を使えば出せるが,トランスポーズしたらお手上げ)。3和音までは密集和音も出せるが,4和音からは開放弦をうまく絡ませないかぎり一般的には無理になる。つまり和声学などの理論書を読むと,すぐにギターでは音を確かめられないという事が起きるのだ。これが和声学を勉強しようとするギタリストにとって初っぱなに来る障害となる。ギターは普通に押さえたコードがすでにオープンボイシングなのである。つまりギタリストがコードを演奏する時,気づかないうちに自然と綺麗な響きで演奏しているというわけだ。
 
 まあ,悪い事ばかりじゃない。ギターは6本の弦が下図のように調弦されて演奏される。
 

 

 
 1弦と3弦の解放弦同士および,異弦同フレット同士の音程は長6度(13th)なのだ。2弦と4弦の間隔も同じ。3弦と5弦,4弦と6弦の解放弦同士および異弦同フレット同士の音程は短7度(セブンス)である。また隣り合う2つの弦の間柄は図のようになっている。
 

 

 
 こういう風に考えれば音程を憶える(考えるのではない!)にはギターは便利な楽器なのである。でもそんなギターの特性を活かした和声学の本なんてないんだよね。まあ,普通のピアノを使った和声学の本だってちっとも売れないこのご時世だ。無理ないけど。有名な音楽之友社の書籍なんか,あまりに書かれた時代が古くて漢字が読めなかったりする。道しるべなしで進まなければいけないギタリストは大変なのである。

(2002年6月10日)