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No.4 たかが音色、されど音色

 ギターの命とは何だろう。それはやっぱりあの音色に尽きると思う。年配の方から聴けば,やかましいだけのように聞こえるエレキギターの音色だって,ストラト,レスポール,テレキャスなどの楽器の種類,オーバードライブ,ディストーションなど様々なエフェクトの活用,そしてマーシャル,フェンダーなどのアンプのセレクトによって音色は驚くほど変わる。もちろんピックアップや木材によっても変わるから,ヴァイオリンほどではないにしろ,オールドと呼ばれる50年代後半のものは高価である。スチール弦のアコギも同じ。
 そしてナイロン弦のクラシックギターこそ,本当に音色が「命」なのである。あのギターでクラシックを弾くのにピックを使うなんてことは絶対にあり得ないのだ。爪を伸ばして,それを紙ヤスリで丹念に磨いて,なおかつ弦をどういう角度,どういう強さで弾くか(これをタッチという)をとことん追求して美音を出す楽器だ。その試行錯誤たるや大変なものだ。爪は,人によって先端の丸み具合や堅さが違うので,教本で一様に説明するというのが難しい。私は紙ヤスリにもこだわり,わざわざパリでフランス製の紙ヤスリを大量に購入しているくらいである。
 しかしクラシックギターというのは,楽器はまだしも,楽曲は非常にマイナーである。ほとんどの人は「禁じられた遊び」とアランフェスの第2楽章,それにアルハンブラの想い出ぐらいしか知らない(アルハンブラを知っていたら大したものである)。となればことさら音色の美しさなど知らなくても当たり前。
 
 ちょっと前にロックでもナイロン弦を使うのが流行ったことがある。しかし彼らは単にナイロン弦を選んだだけで,奏法はひどいものだった。当たり前である。クラシック奏法の教育なんて受けてないんだから。たとえピックを使わないとしても,爪を伸ばして正しいタッチで演奏するなんてことはない。まるでチョッパー・ベースみたいにピシャ,ペシャっという音で弾いてしまう。本当の音色を知っているクラシックギタリストから聴くと幻滅なんだよね。
 クラシックの専門ではないにも関わらず,「おお,それなりのいい音色で弾いてるな」と思うギタリストはジャズの渡辺香津美氏。彼はクラシック界の福田進一氏と交流があるので,爪やタッチのノウハウを彼から教わったのだろう。
 
 しかし,こうしてクラシックギターの音色について偉そうなことを言ってみても,世の中には膨大な数の楽器があり,その各々がこのように歴史ある美音というものを持っている。2001年にHossy氏とパリに行った時,地下道でサックスを演奏している人の音色のことを,「あ,あの音はクラシックを学んだ人の音だね」と言っていた,やっぱり違いがあるものなんだ。

(2002年8月1日)